オーディオを楽しむ

◆CDでアナログの音を。「必殺裏ワザ」完全公開。  


◇「CDをアナログのようなリアルでシャープでディープな音で聴きたい!」というのが、いまだにわれわれ音楽ファン、オーディオ・ファンの切なる願いであり続けております。CDが市場に登場してからかれこれ20年にもなろうというのに、なんということだ。もうちょっとレベルの高い願望を持ちたいものですが、しかしこれが現実なんだから仕方がない。アナログの音が良すぎたのか、はたまたCDのフォーマットがあまりにもお粗末にすぎたのか。恐らくは両方でしょうが、しかしどうもオーディオ・ジャーナリズムの怠慢と商売優先主義のせいのような気がして仕方がない。

◇ひょっとするとこれは数百万円もするようなCDプレーヤーを買えば一発で解決出来る問題なのかもしれません。しかしアナログだったら10万円程度のプレーヤー+カートリッジで聴けたものを、数年でイカレてしまうようなCDプレーヤーに大枚をはたくなんてことは、絶対にしたくないではありませんか。金があり余ってでもいないかぎり、誰だってそう思うはずだと思います。要するに「低予算で出来る! CDでアナログの音が聴ける大特集!」といったような企画をオーディオ専門誌がやってくれなかったことを言っているのです。敬愛するあの故長岡鉄男大先生でさえそれだけはやってくれなかったように思う。やってました? でしたら、是非ともご教示下さい。

◇しかしです。オーディオ・ファンたるもの、いつまでも「ないものねだり」をしているようではダメなのだ。なければ自分でやってみる。これがオーデイオ・ファンたるものの心意気なのだ。というわけで昨年一念発起トライして、遂に発見した「CDでアナログの音が聴ける究極の裏わざ」をここに独占大公開してしまいます。ちょっとこれヤバイかも。高級CDプレーヤー・メーカーのヒットマンに狙われるかも(笑)。・・・とは言いましても、最近のオーディオ・ファンはほとんどケーブル・マニアに近づきつつあるので、本当はそれほどの大発見でもないのかもしれないんですけどね。

◇ではまず当方の最新現有機器を紹介させていただきます。
スピーカー ・・・・・・・・・・ ダイヤトーン DS-A7
アンプ ・・・・・・・・・・ デンオン PMA-2000III
CDプレーヤー ・・・・・・・・・・ デンオン DCD-1450AZ
アナログ・プレーヤー ・・・・・・・・・・ ケンウッド KP-990
カートリッジ ・・・・・・・・・・ デンオン DL-103、オーディオテクニカ AT33ML/OCC
スピーカー・ケーブル ・・・・・・・・・・ アクロテック 6N-S1000
RCAピン・ケーブル ・・・・・・・・・・ MIT T2i, T5i, サエク SL-1803
電源ケーブル ・・・・・・・・・・ S/A ラボ ハイエンドホースS ACS, サエク パワーリンク69
インシュレーター ・・・・・・・・・・ J1PROJECT SS1010S, SQ5519A
スタビライザー ・・・・・・・・・・ 鉛インゴット+ブチルゴム(多数)

◇音楽の仕事をしているにしてはちょっと貧弱なラインナップかなとは思いますが、いずれもコスト・パフォーマンス抜群の製品です。上に「一念発起して」と書きましたが、きっかけはそれまで使っていたCDプレーヤー(7万位の製品)が壊れてしまって、デンオン(いまはデノンと言います)のDCD-1450AZを導入したことです。そしてこの製品はそれまでのものより約3万も高く、かつ雑誌等の評価も抜群の製品なのに、アナログとの差がほとんど縮まらなかったことです。アナログの音が100だとすると50程度(!)なのです。しかもアナログの方はプレーヤー+カートリッジ1コで8万位でしかないのにです(但し、交換したターンテーブル・シートとターンテーブルの裏に貼り込んだブチルゴム、それにシェル+リード線を加えるとアナログにも10万位はかかっているかも)。

◇そこでCDプレーヤーに鉛インゴットを10Kg位乗せてみたり、電源ケーブルをサエク製品にかえてみたりといろいろトライしてみたのですが、差はあまり縮まりません。試しにRCAピンケーブルもそれまでのベルデン製品からサエクのSL-1803にかえてみたら、これはかなり効きました。50が60位にアップした感じです。但しこれは再生帯域だけの話で、ベルデンのタイトな音像と音場が散漫になってしまったような印象がありました。やっぱりアナログとデジタルの差はどうしようもないのかな、と諦めかけていたところに、『ケーブル大全2001』(「オーデイオ・アクセサリー」特別増刊)という本を見つけて読んでみたら、MITというそれまでまったく知らなかったアメリカのメーカーのピンケーブルが井上千岳という評論家に大絶賛されているではありませんか。

◇で、早速サエクのピンケーブルをMITの一番安いT5i(\9,800)という製品にかえてみたら、これは凄かった。こんなに安いケーブルでここまで音が変わるかという激変ぶりです。60が一気に75位までアップした感じです。しかも音像や音場が散漫に広がるのではなく、楽器の位置と大きさ、オケの前後左右の配置が見えるような広がり方なのです。録音したホールの奥行きや天井の高さまで分かるほどです。アメリカのケーブルがここまで進んでいたとはちっとも知らなかった。ターミネーターと称するケーブルにくっ付いているボックスが高域と低域の伝送速度を合わせているそうですが(低域の方が高域より遅いんだそうです)、材質&スペック競争に明け暮れるだけの日本のメーカーはオーディオでもアメリカに負けたかと、いささかガックリ来ました。

T5iの9,800円の威力は、CDプレーヤーの10万の差を軽く超えるように思いますが、やはり弱点はありまして低域が薄くてちょっともの足りません。そこで次に思い切って、だいぶ高くはなりますが(それでも29,800円)同じMITのT2iにかえてみました。結果はドンピシャリで、ギュッと引き締まったタイトな低音がボンボン飛び出して来るではありませんか。上の本(雑誌)で井上千岳氏が「低域が厚くいっそう実体感が高い・・・音場が非常に静かで響きが正確で繊細。その中にくっきりした音像が自然な姿で立ち上がっている・・・傑出したコストバリューだ」と述べている通りです。いやあ井上千岳さんありがとう。おかげで余計な出費をしないで済みました。これで30〜50万円クラスのCDプレーヤーの音を手に入れたような気分です。

◇T2iの導入でアナログを100とするとCDもだいたい80を超えるレベルに達したように思います。因みに言っておきますと、MITのケーブルはバーンイン(慣らし運転。ブレイクインとも言う)にかなり時間がかかります。MITの代理店に問い合わせたところ、1日3時間鳴らすとしても1ヶ月位かかるとのことでした。そこでXLOというアメリカのメーカーの「バーンインCD」を買って来て、寝てる時や外出時にバーンイン信号をリピートでかけ続けるいうことをやりました。だいたい一週間で音の硬さがほぐれて来ました。しかし素性のいいケーブルというものは、耳に突き刺さるような刺激的な音もそれなりに面白く聴けますから、自然に時間をかけて音のほぐれ具合をじっくり楽しむという手もあるだろうと思います。いまではあの硬く刺激的な音がもう一度聴きたいほどです。

◇余談ですが、XLOの「バーンインCD」を捜すのもなかなか大変でした。渋谷あたりですと大型CDショップはもちろん、東急ハンズあたりにもおいてなくて、仕方なく秋葉原の大型CDショップに行って訊いてみたのですが、なんとここにもおいてないのです。いや驚きました。日本はもう先進国とは言えないのかもしれない。秋葉原をあちこちうろつき廻って、やっとヤマギワ本店で見つけましたが、いやあ本当に参りました。あとで気が付きましたが、ラジオ会館のキムラ無線にもおいてありました。「バーンインCD」はいまや音楽ファン、オーディオ・ファンの必需品と言うべきものなのですから、せめて大型CDショップでは常備在庫して欲しいものです。

◇さて、次は電源ケーブルをサエクからS/Aラボという日本の新興ベンチャー・メーカーのハイエンドホースS ACSにかえたところでだいたい85位になりました。CDプレーヤーにDCD-1450AZを使い続けるかぎりいちおうやるべきことはやったように思いますが、念のため、それまで使っていた弾まないゴムで出来たインシュレーターをJ1 PROJECTのSQ5519Aにかえたら、確かに出て来る音に静けさが増したように感じられました。これで86。あとは部屋のコンセントをホスピタル・グレードに取りかえることが残っておりますが、これはまだやっておりません。それをやれば、アナログの音がまた良くなるからこれはイタチゴッコになってしまいますし。

◇実はあと、それまで使っていたモガミ電線の同軸スピーカー・ケーブルをアクロテックの6N-S1000(\3,900/m)にかえました。これがまた実に画期的な激変ぶりで、再生帯域が上下に30%くらい広がったように感じられました。アクロテックは日本のケーブル・メーカーですが、よくやっていると思います。30%というのは決して大袈裟ではなく、ここ15年ほどの日本の材質・スペック競争もあなどれません。だいたい15年以上も前の\800/m程度のケーブルを使い続けて来たことの方が余程おかしいくらいのものです。ですからそういう古いケーブルをお使いの方には、是非最新のアクロテックのケーブルに取りかえることをおすすめします。間違いなくスピーカーが甦ります。

◇もうひとつやったことは、それまでスピーカーのインシュレーター(スペーサー)として使っていたベーゴマ(上向き)による3点支持(前に2つと後ろに1つ)を、J1 PROJECTのSS1010Sの4点支持にかえたこと。これも実に仰天ものの激変ぶりで、それまで充分に出ていなかった低域が全面的に解き放たれた感があります。15年くらい前の『ステレオ』誌の記事を参考にしてベーゴマ3点支持がベストかも、なんて勝手に思い込んでいた当方がアホだったのです。3点支持が問題なのはスピーカーの底板の振動を抑え込んでしまうことです(だいたい当方は左右それぞれのスピーカーに10Kg以上の鉛インゴットを乗せておりますから)。オーディオ評論家の中にはスピーカーの底板の振動は抑え込むべしと言う人がおりますが、それはケース・バイ・ケースで、むしろブックシェルフ型スピーカーには、底板を振動させた方が音が全開状態になるという製品が意外に多いように思います。要は、評論家の言うことなどを鵜呑みにするのではなく、自分に耳でよく確かめることでしょう。

◇スピーカー・ケーブルとインシュレーターの交換で、それまでの音が65くらいだったとすると一気に100くらいにまでクオリティ・アップしたわけですが、これはシステム全体について言えることです。アナログも含めた約50%のアップは嬉しいかぎりですが、アナログとCDの差約14%は依然変わりません。この差をコスト大きくかけずに埋めることは、基本的フォーマットの差から言って至難のわざなのかもしれません。あとは電源+電源ケーブルでしょうが、ともあれわれながらよく追い込んだもんだと思う。結局、「必殺ワザ」と言えるほどのものではなかったかもしれませんが。

◇今回は以上でオシマイ。最後に当方のオーディオ・チェック用ディスクを紹介しますと、CDではシフ「モーツァルト:ピアノ協奏曲全集」(英DECCA)、インマゼール「モーツァルト:ピアノ協奏曲集」(蘭CHANNEL CLASSICS)、マーガレット・プライス「シューベルト歌曲集」(英HYPERION)、ユーミン(松任谷由実)「ノイエ・ムジーク」(東芝EMI)、そしてアナログではユーミンの「オリーブ」(同)、「時のないホテル」(同)、「水の中のASIAへ」(同)といったところです。クラシックでは音像・音場その他トータルでDECCA録音が断然ベスト。はっきり言って独GRAMMOPHONの録音はバランスが悪い。またユーミン・ファンの皆様にはお分かりいただけると思いますが、「オリーブ」(1979)収録「甘い予感」等に聴かれる、ユーミン音楽の多彩な隠し味としての無数の小さな「内声部」を聴き取る楽しみは、ひとに教えたくないほど。尚、ユーミンについては当サイトの「J-POPレビュー」を是非。

◇若干竜頭蛇尾に終わった感がありますが、次回をお楽しみに。それではまた。

【2002/05/12 AT子】

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