ブック・レビュー(1)

◆このコーナーについて              


◇書評というものは普通は新刊本についてなされるものですが、ここではそういうことにはこだわりません。理由は、第一にそういったものは新聞や雑誌にいくらでも載っていること。第二に新刊の中に面白いものがあるとはかぎらないこと。第三に新刊の数が大変に多く当然ながら当方の関心のない方面のものは読まないこと。第四にこのコーナーの目的が、21世紀を生きる「知恵」と「勇気」と「幸福」へのお誘いにあること。こうした理由から、ここでは新旧を問わず本当に読むに値する本だけを紹介させていただくことになります。

◇しかし最近は本のライフサイクルが非常に短くなってなっておりまして、ここで紹介した本が書店にないというケースがあるかもしれません。その場合はご容赦ください。とにかく最近では単行本もほとんど雑誌レベルに近づいている感がありまして、読む読まないにかかわりなく、必要と思ったら即ゲットしておかないとすぐに店頭から消えてしまうことが多いですから。「次回にまた」なんて思って痛い目に遭ったことおありですよね? もちろん出版社名等は明記しますので、必要な場合にはインターネット等で版元や図書館にお問い合わせいただければ幸いです。


吉田進『パリからの演歌熱愛書簡』

 (TBSブリタニカ・1,600円・初版1995年)

◇著者はオリビア・メシアンの弟子で、フランス在住のシリアス・ミュージック(現代音楽)の作曲家。自身の作品にも《演歌T、U、V、W》等があります。要するに現代音楽の作曲家でありながら、同時に熱狂的な演歌ファンという人です。従って演歌作品のアナリーゼなどを期待していると、肩すかしを食らうことになります。ここで分析され述べられている対象は、作品ではなくあくまでも「歌」です。それも、それぞれの歌手に即して行われているため、ここで展開されているのは演歌歌手論であると言うべきです。扱われている歌手は、石川さゆり、森進一、八代亜紀、藤圭子、小林幸子、村田英雄、美空ひばり、都はるみ、千昌夫、五木ひろし、島倉千代子、前川清、二葉百合子、坂本冬美、ちあきなおみ、等々です。

◇小生があれこれ言うよりも、坂本冬美についての記述から少し引用してみましょう。━━ 「坂本冬美は、本物であるばかりでなく、大物である。・・・(中略)・・・坂本の用いる最も基本的な技術は裏声で、それもごく短い音を裏へ返すか、あるいは小節を伴うのが特徴である。これは小林幸子にも共通するテクニック・・・だが、二人の声の音色は全然違うから、与える印象もまた異なる。・・・《男の情話》で格別に美しい裏声は、三番の「強いばかりが、男じゃないと」の「男」の「と」で途中から引っくり返るところ。感受性が鋭敏な時に聴けば、一瞬永遠が聞えるだろう。」(P.88)━━ こんな具合です。

◇はっきり言って、これだけ愛に溢れた演歌歌手論にはかつてお目にかかったことがない。この本のおかげで坂本冬美に一発で「ぞっこん惚れ」してしまいました。小生に「永遠が聞え」たのは上の箇所よりも、むしろ《祝い酒》一番の「浮世荒波、ヨイショと越える」の「ヨイショ」のところです。ほかにも教えられるところは多々ありますが(多すぎるくらいです)、とりわけ、藤圭子論、小林幸子論、島倉千代子論、二葉百合子論には泣かされます。

◇小生にとっては最高の演歌入門書でしたが、読んでからかなり時間が経っていたため、少々熱のないレビューになってしまったかもしれません。であるとしたら、皆様と著者にお詫びします。尚、上に挙げた歌手以外に、さだまさし、山口百恵、沢田研二にもそれぞれ単独の章が割かれております。ご理解いただけるとは思いますが、その部分はよく分かりませんでした(山口百恵はいずれきちんと聴こうとは思っておりますが)。いずれにしても、これは全音楽ファン必読の書。上に載せた藤子不二雄(A)氏装丁の表紙がまたなんとも言えずビューティフルでエグイ。

【2002/05/18 BR子】
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