カントリー・レビュー(1)

◆カントリーは当代最強のKILLER MUSICである。   

◇いやあ驚いた。驚きのあまり息が止まるかと思った。天地がひっくり返るかと思った。同時代の音楽で、演歌やユーミン(松任谷由実)、あるいはレゲエに匹敵するか、更にはそれらをさえ凌ぐ圧倒的なエネルギーと強烈な熱気をみなぎらせた音楽が、いまこの世に厳然と存在していたとは。しかもそれが、これまでわれわれが無視し、抹殺し、軽蔑し、差別し、抑圧さえして来たあのカントリー・ミュージックだったとは。びっくりしたなあもう。

◇小生と同時代の洋楽ファンなら、ボブ・ディランのカントリー・アルバム「ナッシュビル・スカイライン」を聴いた時は「ほとんど屁みたいな音楽だな」と思ったはずだし、ビートルズのアルバムに一曲ずつ収められていたリンゴの歌うカントリーには「どうにかならねえのか」と感じていたと思う。そのカントリーが、いま信じられないような「進化」を遂げて(実はそうではないのだが)、絶対的なパワーと驚異的な音楽的実質でアメリカ音楽界の中心に君臨していたとはね。いやあ、本当に驚いた。

◇いったい日本の音楽ジャーナリズムや音楽評論家はわれわれに何を伝えていたんだろうね。確かに周辺のオルタナティヴ・カントリーだの、カントリー・ロックの特集とかはあったよね。しかしそれはストレートアヘッドなピュア・カントリーがあってこそ存在しうるものでしょう。順序が逆なわけ。ニューヨークやLAを通してアメリカを見るからこういうおかしなことになるわけ。ところで村上龍は小説「KYOKO」で、アメリカ南部のレコード・ショップの商品は9割がカントリーだというようなことを書いていたね。しかしその「事実」を伝えることと、その「意味」を伝えることは全く別のことなんだよね。まあ龍はキューバ音楽にしか興味がないんだから仕方がないけど・・・。

◇NYやLAがアメリカ音楽の重要な発信地であることは確かだろうが、アメリカ音楽のメイン・ストリームはそのど真ん中の中西部及び南部にあると考えるのが自然ではないのか。具体的に言えばナッシュビル、ダラス、オースティン・・・。アメリカ音楽と言えばロックかR&Bかヒップホップを思い浮かべるというのは、メディアに汚染された見方なんじゃないのかね。なんと言ったってこんにちのアメリカを創ったのは19世紀の開拓者たちなんだからね。日本のメディアがどちらかと言うと共和党ではなく民主党寄りというのもおかしな話だと思うけど、それはまた別の話かな。

◇しかし、かく申す小生も人のことが言えた柄ではないのです。小生がカントリーを聴いて雷に打たれたような衝撃を受けたのは実は昨年の11月頃のことで、ほんの数ヶ月前のことでしかないんだから。きっかけは、個人的な必要があってPPM(ピーター・ポール&マリー)やジャニス・イアンの60年代のアルバムとその後の主要作をまとめて聴いた時に、最近のかれらがカントリーのアーティスト(エミルー・ハリスウィリー・ネルソンチェット・アトキンス等々)と共演していることを知ったこと。で、興味をひかれてカントリーのCDを少し買って聴いた中にあったメアリー・チェイピン・カーペンターに、ほとんど一発でもっていかれた(殺られた)、というわけなのです。

◇どういう風に殺られたかと言いますと、「まさにこれこそ60年代音楽の究極のエッセンスではないか」ということを一発で分からせられた、ということです。「黄金の60年代音楽」はロック(レッド・ツェッペリン)とシンガー・ソング・ライター(キャロル・キング)によって息の根を止められたと思っていたのですが、実はそれこそメディアにだまされた認識だったんだね。80年代に10,000マニアックス(ナタリー・マーチャントがボーカルをつとめたバンド)を聴いた時、「おお、こんな音楽がまだあったんだ」と思ったものですが、それをもう少し突き詰めればその時にカントリーと出会えていたといま思いますが、マス・メディアに汚染された小生にはその時にそれが出来なかったということです。

◇いま確信を持って言えるのは、日本のメディアと音楽ジャーナリズムは一貫して最悪の害毒をまき散らして来たということです。カントリー音楽ファンの皆様からは、「今頃わかったの?」と言われそうですが、実にお恥ずかしい話ですが、まさにそうなのです。しかしこれは日本や韓国の演歌にハマるという個人的経験がなかったら、いまもってわからなかったかもしれない。カントリーは「60年代音楽の神髄」であると同時に、ミドル・アメリカンの白人たちの「演歌」以外のなにものでもありませんからね。コブシを聴かせない歌なんて歌と言えないもんね。

◇前置きはこれぐらいにして、レコード紹介に入ります。今回は第一回目ということで、<2001年カントリー・ベスト・アルバム>で行きます。昔からのファンの皆様には「カントリーを聴き始めて数ヶ月で2001年ベスト・アルバムだと?」と言われるかもしれませんが、ノー・プロブレムです。連日連夜のカントリーびたりで、期間こそ短いもののジミー・ロジャースから今年のレット・エイキンスレイン・ブロディまで一応チェックさせてもらってますから。感動にむせび泣いたアルバムがあまりにも多かったので<ベスト10+α>とさせていただきます。悪しからず。

2001年カントリー・アルバム・ベスト10+α
1位:MARY CHAPIN CARPENTER
   "TIME * SEX * LOVE"
(COLUMBIA) ★★★★★ 
雑誌"COUNTRY MUSIC"に倣って、以下五つ星満点制で行きます。一発でもっていかれたのは先に聴いた「ストーンズ・イン・ザ・ロード」(1994)の方でしたが、こちらは2001年の最高傑作。というより、ポピュラー・ミュージックが生んだビートルズ「ホワイト・アルバム」以来の名作と言いたい。全曲がレノン=マッカートニーやブライアン・ウィルソンの名曲に並ぶ。しかしこの人の本当の凄さはコワイぐらいに凛とした歌の佇まい。美しすぎる。
2位:MAURA O'CoNNELL "WALLS & WINDOWS"
 (SUGAR HILL) ★★★★★
モーラ・オコンネルはメアリー・ブラックと並ぶアイルランドを代表する歌姫。ブラックの方はどこがいいのか全然分からんのだが、しかしモーラの方は当代世界最高の歌姫と断言する。いまこれだけ豊かで強くて筋肉質で運動性能のずば抜けた歌唱を聴かせられる人は他にいない。そういう人がカントリーを歌うんだから、もう鬼に金棒。でやっぱり血は争えないもので、どこかビートルズ的なのね。これがもう涙もの。聴かずに死んだら大変。
3位:JOHN ANDERSON "NOBODY'S GOT IT All"
 (COLUMBIA) ★★★★★
このアルバムを初めて聴いた時は、まるでこれはボブ・ディランの「ブロンド・オン・ブロンド」じゃないか、と思った。荒野を響きわたるような独特のハーモニカ、雰囲気いっぱいのオルガン、ギター、そして男っぽいこの声。すべてが超一級品。こういう音楽が同時代に存在していること自体に、心から感謝したいくらいだ。この人の90年代のベスト盤みたいなアルバムも聴いたが、これには及ばない。やっぱりカントリー黄金時代は今なのだ。
4位:CHRIS KNIGHT "A PRETTY GOOD GUY"
 (DUALTONE) ★★★★★
今回挙げた中ではいちばんオルタナっぽいアルバムがこれ。どことなく昔のスプリングスティーンみたいでもあるし。内容は、さすらう孤独な男の歌がギッシリ詰まった極上の傑作。カントリー特有の甘さを削ぎ落としたようなところも、この人の強い意思が感じられて、とても気持ちがいい。それからカントリーのジャケットってかなりイージーなものが多いけど、その点これはジャケも傑作。シューベルトの歌曲集のジャケにも使えそうなくらい。
5位:BROOKS & DUNN "STEERS & STRIPES"
 (ARISTA) ★★★★★
この二人組はポップ・カントリーの代表格と思われている節がありますが、ちょっと違うんじゃないかと思う。ポップかもしれないが、カントリーの核はギトギトなくらいに持っている。今回はマリアッチ的要素もあってこれがもうタマラン。ところどころ90年代のユーミン(松任谷由実)みたいな曲想もあってもう病みつきになりそう。それにしてもどこまでも伸びるダンのテナーは世界最強じゃ。ブルックスの極渋ボイスにもシビレちゃいます。
6位:BRAD PAISLEY "PART U"
 (ARISTA) ★★★★★
こんにち的なピュア・カントリー(ホンキー・トンク)という基準で言えばこれが昨年のベストかもしれない。とにかく徹底的にストレートアヘッド。そして歌はうまいわ、ギターはメチャうまだわ、ソングライターとしても一流だわ。Gのサミュエル・バーバー的なオーケストラの「入り」も見事。ドラマチックに過ぎるほどですが、アメリカの香りがいっぱいでシビレます。しかし極めつけはウエスタン・スインギーなH。凄いくらいの才能の持ち主です。
7位:MARLE HAGGARD "ROOTS VOL.1"
 (ANTI) ★★★★★
ハガードの自宅で一発録りしたというもの凄いアルバム。しかしこれだけのものが本当に一発録りかね? 確かに音はそうらしく聴こえるけど。ともかく昨年出た極上のナゴミ系カントリー・アルバム。前作も良かったが、これはひょっとするとハガード畢生の名盤かもしれない。ウエスタン・スイングを前面に押し出しているところが素晴らしい。ボーカルの枯れ具合も曲想にベスト・フィット。これがVOL.1だと言うんだからね。次作が待ち切れないね。
8位:JOE DIFFIE "IN ANOTHER WORLD"
 (MONUMENT) ★★★★☆
いまカントリー界で最もかっこいいシンガーがこのジョー・ディフィーだ。ルックスの方はイマイチなんだから、カウボーイ・ハットでもかぶればもっと売れるだろうに、と思うんだけどね(笑)。内容は完璧の一言。声の伸び、時々聴かせる裏声、コーラスのゴージャスさ、フィドルを含むバックのノリ、曲想の豊かさ。どれをとっても文句のつけようがない。では何故五つ星ではないのかと言うと、上の7枚に比べると何か不足を感じるから。明確に言えないけど。
9位:TRACY LAURENCE "S/T"
 (ATLANTIC) ★★★★☆
星の数は減点法でマイナスするしかないからで、ここ迄は五つ星と思ってもらって構いません。この人のカン高い硬質な声も実に素晴らしい。この声でストレートなホンキートンクをやられたらイチコロですね。しかし極めつけはやっぱりBのウエスタン・スイング。むせび泣くフィドルとトレイシーの男臭いボーカルのコンビネーションがたまりません。小細工いっさい無しのピュア・カントリー・アルバムとして最近の代表的名盤。ルックスもかっこいい。
10位:DANNI LEIGH "DIVINE AND CONQUER"
 (AUDIUM) ★★★★☆
昨年はこの人の年だったとも言えるかも。なにしろアルバムを2枚も出したんだから。ジャケはもう一枚(MONUMENT盤)の方が断然グッドですが、内容でこっちを選びました。60年代フォーク・ロック風のBにまず殺られますし、アコースティックなDもダニーのけだるそうな声とベストマッチ。E以下はどの曲も粒揃いかつユニークで、どれをシングル・カットしてもヒットしそう。つまりアルバムとしての完成度が非常に高い。まだの方は是非。
11位:REBA McENTIRE "I'M A SURVIVOR"
 
(MCA) ★★★★☆
リーバの「90年代のベスト盤」といったアルバム。初期のリーバの方がいいとおっしゃるカントリー・ファンの皆様が多いようですが、小生はそうは思わない。シャナイヤやフェイス・ヒルとは違って、歌の根っこのところが、リーバはコテコテなまでにカントリーしていると思う。細部の歌い込みやコブシのまわし方において、リーバこそ当代最強の「ミス・カントリー」だと言いたい。全16曲一部の隙もない最高のカントリーに満ち溢れた大名盤です。
12位:DOLLY PARTON "LITTLE SPARROW"
 (SUGAR HILL) ★★★★
ドリー・パートンは日本で言えば美空ひばりに当たる人です。そのドリーが前作に続いて、ブルーグラスをやっております。カントリーが演歌だとすると、グラスは浪曲だろう。バンジョーがどこか三味線を思わせるし。そう言えばここでのドリーの発声はなんだか二葉百合子みたいで、もうタマリません。まさにアメリカ撫子(ナデシコと読む)の面目躍如。歌詞が分かれば血涙を絞らされることになりそうだ。「ジョリーン」の頃より小生は好きです。
13位:ALISON KRAUSS + UNION STATION
 "NEW FAVORITE"
(ROUNDER) ★★★★
個人的にはクラウスの歌はあまり好きではない。浪曲師という感じが弱いし。しかし、ユニオン・ステーションのバンド・リーダーとしては実に立派だし、ネオ・ブルーグラスの開拓者としての功績はあまりにも偉大だ。昔ながらのグラスは聴いていると少々退屈だけど、クラウスブラウンは曲想と和声進行で引きつけるからね。でバンドとしての久々の新作ということで、これは挙げざるをえない。A等で聴けるダンのボーカルも素晴らしい。
14位:LESLIE SATCHER "LOVE LETTERS"
 
(WARNER) ★★★☆
いまやソング・ライターとしても大活躍の才女サッチャーさん。ルックスがなんとなくゴルファーの不動裕理みたいなのも好感が持てる。それはともかく、やっぱり曲がいい。そのせいか、今回挙げた中ではいちばんフォーキーなアルバムと言えるかもしれない。曲と歌詞をじっくり聴かせるという意味で。もちろんホンキー・トンカーとしても一流で、コブシの聴かせ方もビシッとキマッてます。この人かタミー・コクランかで最後まで迷ったけど・・・。
15位:RODNEY CROWELL "THE HOUSTON KID"
 (SUGAR HILL) ★★★☆
一聴そうは聴こえないかもしれないけど、今回挙げたなかでいちばんポップなアルバムがこれ。初めて聴いた時は、ビーチ・ボーイズのマイク・ラブが歌ってるのかと錯覚したほど。コーラスのつくりも見事。バックのサウンドにも60年代のバーズを思わせるようなところがあるし。ところでこの人、あのロザンヌ・キャッシュの亭主だった人なんですね。しかし、お父さんのジョニーはまったく怒ってないらしくて、Eでは仲良く共演しております。

◇以上いちおう15点まで絞り込みましたが、これが実に大変な作業でした。どうしてかって、それはここに挙げられなかった中には、LYLE LOVETTETAMMY COCHRANDAVID BALLCLAY WALKERCAROLYN DAWN JOHNSONJEFF GARSONDALAS WAYNEJIM LAUDERDALETOBY KEITHGARY ALLANSHERRIE AUSTIN、そして御大GEORGE STRAIT等々、キラ星のような名盤が更にズラ〜ッと控えてるからです。これらを涙を飲んで落とすのが本当に苦痛でした。しかしなんという贅沢な苦痛なんでしょうね。カントリー・ファンになって本当によかった。何度も言うようですが、これが同時代の音楽なんだからね。たまりませんね。信じられませんね。

◇とは言っても少々心残りはありまして、"COUNTRY MUSIC"1月号の'CRITICS CHICE: THE FAVOURITE ALBUM OF 2001'に載っている「2001年マイ・ベスト・アルバム」のうち、重要と思われる15アイテムほどがいまだに入手出来ていないことです。PAM TILLIS、KATHY CHIAVOLA、MARY GAUTIER、JODY JENKINS、ERIN HAYE...等々。マイナー・レーベルものが多いのですが、これらが渋谷あたりの大型CDショップにおいてないとはどういうことなんだろうね。ちょっと信じられない感じですね。自分でアメリカから取り寄せるしかないんでしょうかね。

◇まあそれは取り敢えずおきましょう。今年に入ってからでも五つ星クラスのアルバムがもう何枚も出ておりますから。しかしそれらのご紹介は機会を改めて。それではまた。

【2002/05/06 CR子】
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