カントリー・レビュー(2)

◆2002年上半期のKILLER新作アルバムから。     


◇本年上半期のキラーな新作アルバムを7点しか挙げられないというのはいささか淋しい。カントリーを聴き始めたのが昨年の10月頃で、その頃にはもう昨年のベスト盤候補が絞り切れないくらい大量に揃っていたのに比べると、ちょっと少な過ぎるんじゃないかって気がします。あるいは毎年後半に入ってから強力盤が一気に出るのかもしれないから、現時点でこういうことを言うのはちょっと早過ぎるのかもしれませんが・・・。それに、相変わらず雑誌"COUNTY MUSIC"あたりで高い評価を得ているマイナー系のカントリー・アルバムが東京でも手に入らないというのも困ったものです。こういう状態では総合的なカントリー・アルバム・レビューが出来ない。ホント困っちゃいます。

◇それでもTIFT MERRITT, RHETT AKINS, HANK WILLIAMS III, ROGER WALLACEのずば抜けた4枚が出たわけだから、とりあえずは良しとしよう。しかし今回ここに挙げた7枚はいずれも初めて聴くアーチストのもので、それだけでもカントリーの層の厚さが分かろうというもの。それから、JORMA KOUKONENという懐かしい名前に出会えたのも、カントリーを聴いていればこそ。そのヨーマがギタリストを務めていたあのジェファーソン・エアプレインのグレース・スリックは一体どうしてるんだろうなあ。ヨ−マが誘って一緒にブルーグラスのアルバムかなんかを作ってくれたら最高だろうになあ。「貴方だけを」をブルー・グラスで再演してくれたりとかね(^^)。

◇それにしてもハンク・ウィリアムスの一族というのは凄い。小生IIIのお父さんのIIの方は、時代遅れのロックン・ローラーみたいな感じがしてあまり好きではないのですが、このハンクの孫は本物だ。偉大なおじいさんの存在なんか関係ないかのように、まるでボブ・ディランがエレクトリック・ギターをかかえて善良なフォーク・ファンの前に出て来た時のような音楽を聴かせてくれようとはね。このIIIやTIFT MERRITTのような突出した才能は、恐らくカントリー及びその周辺のフィールドからしか出て来ようがないような気がする。前置きはこれぐらいにして、各アルバムのレビューに入ります。


◇7月18日に上の「前置き」を書いた直後に状況一変。翌19日にいつものレコード店に行ってみたら、なっ、なっ、なーんと。大好きなDOLLY PARTONDARRYL WORLEYの新作、それにLAURA MINOR, ANDY GRIGGS, STEVE EARLの新作が店頭に出ているではありませんか。「うわおーっ」という心の中の絶叫とともに、取るものも取り敢えず即ゲット。「アメリカでも夏のボーナスを当て込んでこの時期に強力盤が一斉にリリースされるのか。それとも夏のバケーション前ということと関係あるのかな。」などとよく分からないことを考えながら、プレーヤーに乗せたものですが、当然のことながら全部大当たり。7月はもう「上半期」には入りませんが、これを入れなきゃ死んでも死にきれないから、この5枚を入れることにして、全12点になったところで改めてレビューに入ります。

TIFT MERRITT "Bramble Rose"
(UMG RECORDINGS) ★★★★★
当方このティフト・メリットがどういう人なのかよく知らないのですが、音楽からしてカントリー・プロパーの人ではないのかもしれない。そう言えばメアリー・チェイピン・カーペンターだって、アリソン・ムアラーだって、その凄さはカントリー特有のものとは少し違うんだから、このちょっとした出自の違いは注目に値するかもしれない。ともかく、このアルバムは今のところ本年最大の収穫と断言出来る。全て自作曲でその方向はオルタナ的と言うよりは、フォーク・ロック的と言いたい。多少70年代初頭のキャロル・キングやジャニス・イアンを思わせますが、その方向は全く逆で、ユートピア的共同性への志向が強い。しかし、それをストレートに表現しないところが流石だと思う。そうした「含羞」が音楽に「深さ」と「威厳」をもたらしている。ジャンル無用の稀に見る大傑作です。
LAURA MINOR "Salesman's Girl"
(HIGHTONE) ★★★★☆
ティフト・メリット同様、この人のこともこのCDを買うまで知らなかった。録音はナッシュビルではなくリッチモンドで、やはり普通のカントリーとはサウンドが少し違う。何と言ってもバンドのサウンドがほとんどザ・バンドの前身のホークスみたい。要するに65年のボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」や「淋しき街角」のあのオルガン主導のサウンド(当時ガキだった小生がビートルズ以上に熱狂したサウンドです)。断っておきますが、60年代のあのサウンドを継承しているのは90年代以降のカントリーであって、つまり今ではカントリーが60年代フォーク・ロックを「包摂」しているということです。つまりこのアルバムはティフト・メリットよりナイーブに(?)「共同性志向」が前面に押し出されている。その分星半分劣る。この微妙さを分かって欲しい(後述します)。
RHETT AKINS "FRIDAY NIGHT IN DIXIE"
(AUDIUM) ★★★★★
最高に気持ちのいい極上のストレート・カントリー・アルバム。全編を貫くポップな南部賛歌といった趣きのコンセプトが実に爽快。しかもそのほとんどが自作だから、歌のすみずみまで確信と余裕が満ち溢れている。カントリーの申し子のような声の素晴らしさも特筆に値する。バンジョーのキレのいいカッティングをフィーチャーしたバックも見事。要するに非の打ちどころのないカントリー名盤。どれをシングル・カットしても大ヒット必至のように思う。
HANK WILLIAMS III "Lovesick Broke & Driftin"  
(CURB) ★★★★★
これがハンク・ウィリアムス3世のアルバム。いきなり@がボブ・ディランの名曲「ホームシック・ブルース」風の曲でビックリさせられますが、聴き進んで行くにつれて「これこそ21世紀のロカビリーなんだ」ということがよーっく分かります。この人のおじいさんは大天才でしたが、天才は隔世遺伝するらしい。ジョージ・ストレイトが切り拓いた、より純化されたカントリー音楽を更に「進化」させて行く才能の登場です。これの日本盤が出ないのは何故?
ROGER WALLACE "THE LOWDOWN"
(TEXAS MUSIC GROUP) ★★★★★
いささかのケレン味もない誠にストレートなホンキー・トンク・アルバム。超豊作だった昨年ですらここまでピュアなカントリーはなかった。やっぱりカントリーの「本場」はナッシュビルなんかではなくテキサスなんだってことが実によく分かる(ナッシュビルは産業としてのカントリー音楽の「本場」なのだと思う)。ここに聴かれるようなメキシカン風味なくしては、カントリーはその魅力を半減させるほどのもので、これを本年最大収穫として良いとさえ思う。
DARRYL WORLEY "I MISS MY FRIEND"
(SKG MUSIC) ★★★★☆
この人の2000年の前作は本当に素晴らしかった。「好きなカントリー・アルバムを10枚挙げよ」と言われたらまず前作を挙げたいほど。それに比べるとこれは若干落ちるかもしれないが、その声を聴くだけで幸せになれる。当方にとってはまったく稀有の歌手と言うべき人。孤独感を漂わせた声と歌がもうたまらない。ギター、バンジョー、フィドルを前面に押し出したオールド・ファッション系バックも前作同様極上品。これも愛聴盤になりそうです。
DOLLY PARTON "HALOS & HORNS"
(SUGAR HILL) ★★★★☆
昨年の前作も良かったけどこれはそれを超えそう。ジャケもグーだし。清楚なドリーさんもいいけど色っぽいドリーさんも最高。歌と声は相変わらずで、美空ひばり亡きいまではドリーさんだけが当方の心の支えみたいなもんです(^^)。とにかくこの心のすみずみまで沁みわたる声の存在感は唯一無二。ルックスとはうらはらの自作曲のシューベルト的寂寞感がたとえようもない。同時にユーモアもあるし。ドリーさんのアルバムは全部揃えよう。
LANE BRODY "PIECES OF LIFE"
(SCREAM RECORDINGS) ★★★★☆
スキャナーが安物でレイン・ブロディさんの美人顔が台無し。縮小するとこうなっちゃうのです。申し訳けない。内容は、@を聴いただけでこの人の個性というものが一発で分かる。孤独なアメリカ女(男も女もアメリカ人はみな孤独であることをを自覚しているのです)の「決意」というものが一発で伝わる。これがカントリーの素晴らしさなんだよなあ。孤独だから「共同性」ということの「意味」もよく分かるわけ。大切に聴いて行きたいアルバムです。
STEVE EARL "SIDETRACKS"
(E-SQUARED) ★★★★☆
タイトルは「落ち穂拾い」といった意味なんでしょうが、実に良い得て妙。レゲエあり、アイリッシュ・ダンスあり、前作の日本盤ボーナス・トラックあり、といった具合ですが、とりわけ素晴らしいのが肩の力を抜いたSTEVE本来のロックするカントリーの@〜B、G〜K等。しかしもっと凄いのがLのボブ・ディランの「マイ・バック・ペイジ」。これはオリジナルもバーズも凌ぐ決定的な名演。この人はやっぱり当代カントリー界を代表するスターのひとり。
KEVIN DENNY "S/T"
(LYRIC STREET) ★★★★
初めて聴く人ですが、どこかDARRYL WORLEYに通じる個性を持った歌い手です。まずスティール・ギターとフィドルとハーモニカをバックに歌う@が素晴らしい。にぎやかな曲調のCも、もうひとひねりすれば大ヒット曲になりそう。しかしポップさを抑えてカントリーに徹しているところがまた好感が持てる。日本にもこういう若い演歌歌手がもっと出て来て欲しいよなあ。下手なJ-POPなんかより、演歌の方がずっと日本の「資産」になるのにね。
ANDY GRIGGS "FREEDOM"
(RCA/ BMG) ★★★☆
この人もこのアルバムで初めて聴く人。MARTINA McBRIDE等をFT.したメジャーな作品ですが、アーチストがしっかりしていさえすれば、ちゃんと良いものが出来るという見本のようなアルバム。何よりも声に力があって歌から存在感が確実に伝わって来る。最高の聴き物はブルーグラス風ケイジャンといった趣きのIだろう。欲を言えば全編この路線でやって欲しかった。いずれにせよ将来有望なカントリー・シンガーであることは間違いない。
JORMA KAUKONEN "Blue Country Heart"
(SONY MUSIC) ★★☆
正直に言うと、これは懐かしさのあまりつい入れてしまったというようなものです。ヨーマのギターの腕が一流であることは言うまでもないが、音楽的には、例えば二人のアリソンやロンダ・ビンセント等と並ぶようなレベルにあるわけではない。「趣味でブルー・グラスやブルースをやってみました」という水準を超えるものではないということです。楽しくはあるけど、多分それだけ。だから上のグレースの話は与太話の類い。音楽はそれほど甘くない。

◇TIFT MERRITTとLAURA MINORの違いをここで述べるつもりだったのですが、ちょっと難しい気がするので機会を改めたいと思います。ひとつだけ言わせてもらいますと、音楽に「ユートピア的共同性」への志向を持たせたいのなら、ビートルズやビーチ・ボーイズやPPMの音楽をそっくりコピーすればいいわけです。しかしいまそれをやったところで現在のリアリティーは持ちえないわけです。そういったようなことをLAURA MINORの音楽に感じたので、失礼ながら「ナイーブ」という言い方をしたわけです。それに対してTIFT MERRITTの音楽にはある種の「媒介」を作ろうとしているような意図が感じられたということです。そういう「媒介」なくしては、60年代的音楽は蘇えりようがないということです。そういうものを蘇えらせるということは、いまここでそれを「創造」して行くということ以外ではありえないわけですから。そしてそれは実はもう始まっているのですが。

◇尚、発売当時かなり話題になったと思われるKENNY CHESNEY (BMG), BRAD MARTIN (EPIC), KASEY CHAMBERS (WARNER BROS), MARK CHESNUT (COLUMBIA), DARYLE SINGLETARY (AUDIUM), MARY SISTERS (UNIVERSAL), CHRIS LeDOUX (CAPITOL)等の新作アルバムをここに入れなかったのにはもちろん理由がありまして、はっきり言ってキラーとは思えないからです。その全てがそうだというわけではもちろんありませんが、売りだけを狙った空虚で無内容なメジャー・プロダクションからは本当に良いものは生まれませんから。ALAN JACKSON (ARISTA)が入ってないのは個人的な「相性」の問題かもしれません。嫌いではないのですが、よく分からないのです。

◇いずれにせよ、結局は充実したキラー・ラインナップになりました。それではまた。

【2002/07/22 CR生】

◇追記(1):ひとつ書き忘れておりました。今年リリースされた邦人カントリー・シンガーMIYA ISHIDA(石田美也)による傑作"HIMAWARI(ひまわり)"(CITYLIGHTS)のことです。このアルバムは、カントリー・ミュージックというフレームだけで評価するわけには行かないだろうと考えまして、当サイトの別枠(「J-POPレビュー 06/21」)で紹介しております。ご参照下さい。このアルバムは五つ星満点制の当ページの採点で行くと、★★★☆あたりになるだろうと思われます。

【2002/07/25 CR生】

◇追記(2):「今月の一枚 02/08/16」ALLISON MOORER 2年振りの大傑作"MISS FORTUNE"をとり上げました。当ページの採点で行くともちろん★★★★★です。是非チェックして下さい。

【2002/08/16 CR生】
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