カントリー・レビュー(4)

KIM RICHEY "RISE"
(LOST HIGHWAY) ★★★★★
今年は女性によるカントリーが超豊作の年と言えますが、これもその一枚。但し、ディキシー・チックス以下のストレート・カントリー路線ではなく、ティフト・メリット、ルシンダ・ウィリアムス系のひねったカントリーに近い。好きな言い方ではないが、オルタナ系って言えばいいのかね。まあジャケット・デザインを見ていただければ、おおよその傾向は分かるかも。しかしキム・リッチーはこのアルバムでなにかもってまわったようなややこしい「韜晦音楽」みたいなことをやっているわけでは断じてない。彼女が何をやろうとしているかは一聴して理解出来る。但し音楽としてであって言語化しにくい。すべてとても「懐かしい」音楽なのですが、それがなんであるのか、「検索」出来ないでおります。しかしとにかく名作。この人については下で改めてということで。
PINMONKEY "PINMONKEY"
(BMG) ★★★★☆
時々音楽を言語化する「検索機能」がはたらかなくなる音楽にぶつかることがありますが、キム・リッチーの音楽がまさにそれ。しかしもう一度言っておきますが、キム・リッチーは「高級」で「難解」な音楽をやっているわけでは断じてなくて、とても「優しく」て「易しい」音楽をやっているのです。しかもこれがいまのアメリカを代表する名盤なのです。さてこちらいかにも南部のレッドネック4人組といった風情のピンモンキーのアルバム。小生キム・リッチーもピンモンキーも初めて聴きますが、こちらはキムとは違ってストレートそのものカントリーが満喫出来ます。しかもGはドリー・パートンが曲を提供してボーカルにも参加。ドリーの歌が聴こえることで生まれる雰囲気の変化にシビレます。そのほか4人組ならではのコーラスの美しさも特筆に値する。
Pam Tillis "It's All Relative- Tillis Sings Tillis"
(SONY MUSIC) ★★★★☆
左のジャケットのパム・ティリスがもうたまりません。カントリー界でいちばん「いい女」はドリー・パートンなのかもしれませんが、パム・ティリスだって負けてない。左のジャケの髪型、表情、ポーズがもう最高。前置き(?)はこれぐらいにして内容に入りますが、「ジャケがいいものは中味もいい」と言われるように(?)、これは父親メル・ティリスの昔の名曲を情感を込めて歌い上げた名作。渋いことこの上ない作品ですが、心を打つ今年の名盤です。
TANYA TUCKER "TANYA"
(TUCKER TIME) ★★★★☆
待ってました。”テキサスの竜巻”タニヤ・タッカーひさびさのニュー・アルバム。でこの新作ですが、しばらくぶりってことが嘘みたいにかっこいい「ドス」を聴かせまくるタニヤ節がたっぷりと堪能出来る一枚なのです。タニヤの絶好調ぶりにひっぱられて、快速調の曲におけるバックのノリがまた実に心地よい。変わったことはなにひとつやっておりませんが、誰もタニヤにそういうものを求めてはいない。とにかくこの極上タニヤ節に聴き惚れるべし。
Thomas Michael Riley "Wild Town Texas"
(CAMPFIRE RECORDS) ★★★★☆
テキサス野郎トーマス・マイケル・ライリーの新作。以前から感じていたのですが、テキサスのカントリー・ミュージックというものは他の地域のそれとはかなり違いますね。これって一体なんなんでしょうね。このアルバムのように歌と演奏の弾み具合がよりアッパーになって「空気」がカラッと明るくのが普通ですが、ディキシー・チックスの新作のように「影」がいっそう濃くなったりもする。とても不思議です。ともかくこれは前者の代表。超キモチイイ。
Kimberley M'Carver "Cross The Danger Line"
(PRIME CD) ★★★★☆
このキンバリー・マカーヴァーもテキサスの人。歌い方と声はカントリー・プロパーの人と言うよりティフト・メリットに近い。曲も自作中心。だからシンガー・ソング・ライター的な感触もありますが、歌の勢いとバックの演奏はかなりアッパーなテキサス・カントリー。スティール・ギターとマンドリンによる南国的香りも素晴らしい。そう言えばこの人マリアッチを歌ってもクールな感触のとてもユニークなものになりそう。今年の拾いものの一枚と言えます。
ROYAL WADE KIMES "A DYIN' BREED"
(WONDERMENT) ★★★★
これと上について特に言えることですが安物のスキャナーは困っちゃいます。いくらぐらいのスキャナーだとこういう「荒れ」が出ないんでしょうか? さてこのロイヤル・ウェイド・カイムズも初めて聴く人ですが、ジャケットからも想像される西部劇=ウェスタン風味がなんとも言えずグッドです。最後に収録されている'Hidden Track'もまた西部劇的なノリで「9.11」のテロリストたちに宣戦布告をしているようですが、これぞグラスルーツのアメリカです。
TRAVIS TRITT "STRONG ENOUGH"
(COLUMBIA) ★★★★
この人のアルバムは何枚か持っておりますが、心から「これはいい」と思ったことは実は一度もありませんでした。しかし、このアルバムはとてもいい。恐らくトラビス・トリットにとっても快心の出来だったんだろうと思う。例によって自作中心ですが、多分曲作りに自信があったんだろう。なにしろタイトルが”ストロング・イナッフ”ですからね。気合いの入ったボーカルがいい曲を得たことでまさに全開状態。最高のトラビス・トリットが聴けます。
BUDDY MILLER "Midnight And Lonesome"
(HIGHTONE) ★★★★
前回は奥方のジュリーとのデュオ・アルバムでしたが、今回はバディのソロ・アルバム。やっぱりこうでなくっちゃ。ジュリーも曲作りとコーラスで参加してはおりますが、なにしろバディはボーカルが最高にかっこいいんだから。マイナー系で欧米のメインストリートの音楽にはない音階で作られたCがカントリー・ミュージックのルーツというものを語り尽くしております。ケルト音楽ということですけど。その他でも構成を知りたくなるような曲が多い。
STEVE EARLE "JERUSALEM"
(E-SQUARED) ★★★★
新聞でも話題になった「問題作」の登場です。あのアメリカ人タリバン兵を歌った「ジョン・ウォーカーズ・ブルース」を含むスティーヴ・アールの最新作です。でやっぱり確かにこの曲は「気合いを入れて」作られている。共感するところがあったんだろうね。しかしアラビア音階風の旋律で作られたFのほうが音楽としては面白いかもしれない。Jの「エルサレム」もSteve一流の「野心作」。小生などはむしろそのフォーク・ロック・サウンドにしびれます。
KATHY MATTEA "ROSES"
(NARADA) ★★★
キャシー・マティーアは今回の新作もアイリッシュ回帰路線でまとめております。それがどういう意味を持つのか、アルバムを聴くだけではよく分かりませんが、いちおう水準をクリアした曲が揃ってはおります。しかしこのアルバムの聴きものはキム・リッチーが書いたDかもしれません。どこかメアリー・チェイピン・カーペンターを思わせます。この曲でキム・リッチーの音楽を「解読」するキーのひとつが分かった気がする。詳細は下をご覧下さい。

◆この時期の「カントリー・レビュー」でベスト・セラーまちがいなしのリアン・ライムスとフェイス・ヒルの新作が入っていないのはおかしいかもしれませんね。しかし小生まだこの2枚買っていないのです。いずれ買うことになるのかもしれませんが、いまは買う気が起きません。もしいま買っても曲のアタマだけを聴いてそれでオシマイということなりそうだからです。困ったもんですね、こういう「食わず嫌い」は。いずれにしても、もし買うことになってどこかに引っかかるところがあったら、その時に報告させていただきます。あとは大好きなはずのブルックス&ダンがリリースしたクリスマス・アルバムも買おうかどうしようか迷っています。これはいいに決まってるんですけどね。だけどクリスマス・ソングを聴きたいとは思わないからなあ。

◆ここまで書いたのが10月29日ですが、11月2日にやっとキム・リッチーのファースト("KIM RICHEY"1995)とセカンド("BITTER SWEET"1997)を入手することが出来ました(サードは見つからなかった)。最近気が付いたんですが、「J-POPレビュー」で取り上げた邦人カントリー・シンガー石田美也さんのホーム・ページには彼女が「影響を受けたアーチスト」としてメアリー・チェイピン・カーペンター等と並んでキム・リッチーの名前が挙げられていますね。「そうか、2002年を代表する名曲と言える石田美也の《ひまわり》成立のバック・グラウンドにはメアリー・チェイピン・カーペンターと並んでキム・リッチーの存在があったのか」ということがやっと分かった次第。それなら、ここでキム・リッチーの音楽について自分なりに理解しておくことはほとんど「義務」でさえあるような気がして来た。

◆雑誌"COUNTRY MUSIC"で知ったのですが、キム・リッチーは現在オースティン(テキサスの首都)の住人です。ご存知の通りオースティンはテキサスとの国境まで300キロぐらいのところで、車を飛ばせば数時間で「国境の南」に出られるところです。恐らくいまではダラス(デキシー・チックスの本拠地)と並んでカントリー・ミュージックの最重要の発信地と言えるだろうと思います。キム・リッチーの出身地は知りませんが、まずはこのオースティンの住人であるということは重要なポイントと言えるはずです。というのは、キム・リッチーの音楽がストレートなカントリーとはちょっと違うように聴こえるとしても、そのことと本人の意識はまた別だろうというという想像が出来るからです。それから、通常われわれがカントリーらしいカントリーと考える音楽にはアパラチア地方(テネシー、ケンタッキー等)の音楽の影響が濃厚に感じられるようですが、いまのカントリーにはディキシー(南部)音楽の要素がより強くなっている可能性がある、ということも押さえておく必要があるように思うからです。現時点ではこれは「仮説」以上のものではありませんが。

◆さて、キム・リッチーのファーストとセカンドを聴くことで「分かった」ことですが、彼女の音楽にもメアリー・チェイピン・カーペンターやアリソン・ムアラーのそれと同様「黄金の60年代音楽」の影が極めて濃厚に見られるということです。具体的に言いますと、まずはバーズ、それからママス&パパスやジャッキー・デシャノンなどの音楽の影が強く感じられる。あとは、ラビン・スプーンフル、ストーン・ポニーズ(ボーカルは若きリンダ・ロンシュタット)、クラシックス・フォー、?&ザ・ミステリアンズ・・・。要するに、60年代音楽のかなり風変わりではあるけれどもこの上なく魅惑に満ちた部分がキム・リッチーの音楽の養分になっているらしいということです。だいたいファーストの@のリズムなどほとんど「96粒の涙」(?&ザ・ミステリアンズ)ですからね。そう言えばこのグループもテキサス出身だった。それはともかく、キム・リッチーのファーストについて総じて言えることは、フォーク・ロック時代のバーズを彷彿とさせるということです。リッケンバッカー(?)のエレキ12弦はビンビン鳴ってるし、音階や和声進行、そして独特のリズム感覚やドラム・パターンもこの時代のバーズ。

◆セカンドはファーストの延長上にあるアルバムと言えますが、キム・リッチー自身の「個性」といったものがより強く感じられるようになります。まずそれが感じられるのがセカンドのAで、バンジョーによる不思議な和声(コード)とリズムに早くも最新作"RISE"の音楽が感じとれます。総じてバンジョーをフィーチャーする度合がぐっと高くなっているのがセカンドの特徴と言えます。しかしそれを言えばカントリーに転進した第三期バーズの場合もそうだったんですけどね。更に言えば、キム・リッチーはサイケデリック・ロック(ラーガ・ロック)時代の第二期バーズの音楽からも何がしかを学んでいるように思われる。ひょっとするとこの人は「バーズ・フリーク」なのかもしれない。もうひとつセカンドで特筆すべきことは、FGHにおいてはっきりとマリアッチ風のメキシコ風味が聴かれることです。それは音階、和声、リズムの全面に聴かれます。しかしデビッド・ボールやトム・ラッセルなどのストレート・カントリーの人たちのマリアッチとは不思議に感触が違う。とは言え、キム・リッチーがオースティンの住人である所以はこういうところにあるらしいことは理解出来る。

◆さて、ここから最新作"RISE"に進むことが出来るように思っていたのですが、やはりサードを聴いてないと難しいように思う。セカンド、"RISE"ともにキム・リッチーの音楽であることはよく分かっても、"RISE"の音楽を「言葉」としてつかまえることはまだ出来そうにない。というわけでそれについてはまた機会を改めてとさせていただきます。しかしともかく、キム・リッチーがメアリー・チェイピン・カーペンター、アリソン・ムアラー、ディキシー・チックスらと並んで現在のアメリカのミュージック・シーンの先端部分を牽引する最重要のミュージシャンのひとりであることは間違いない。

◆出来るだけ早いうちにメアリー・チェイピン・カーペンターの音楽について考えをまとめてみたいと思っておりますが、やっぱり新譜が出ないとね。出ますかね、近々? 日本ではユーミン(11/19)と桑田佳祐(11/26)が出るからなあ。中島みゆきや山下達郎は買ってるのに忙しくてまだ聴けてない状態だからなあ(つまんなそうだしね^^)。メアリーさんはだいぶ先になってしまうかも・・・。

【2002/11/04 CR生】
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